Table Of ContentActa arachnol., 41(2): 215-222, December 23, 1992
タ イ リクサ ラグ モL'ηyρ 痂06刑 ρ加 ηo(Araneae:Linyphiidae)
の体 サ イ ズ を用 い た齢 の判 定 法
秋 田 米治1)
Yoneji AKITA1~ : Estimation method of instars of Linyphia emphana
(Araneae: Linyphiidae) using body sizes
Abstract To estimate instar of Linyphia emphana WALCKENAER, the relation-
ships between body sizes and instars were investigated under three different
feeding conditions by rearing in plastic cases. Three body size parameters of
each instar of the rearing spiders, i.e., posterior width of median ocular area,
width of eye area, and width of carapace, were measured. Of these, the
posterior width of median ocular area steadily increased 0.03 mm (range
0.02 mm) after each ecdysis, while other body sizes were remarkably varied.
The result of this study shows that posterior width of median ocular area
was the best indicator to estimate the instars of this species.
は じめ に
タイリクサラグモ(L勿 ρ肋6吻 加παWALCKENAER)は,北 海道の天然林とくに天
然林内の樹下植栽針葉樹幼齢林では優占種となっている造網性のクモであり,ト ドマツの
重要な害虫である トドマツオオアブラムシの有力な天敵の1っ である(秋 田,1985,1990).
トドマツオオアブラムシ防除に対 して天敵として本種の利用を促進するためには,基 礎 と
なる生態の解明が不可欠であるが,現 在のところはほとんど着手されていない.そ こで本
種の生態解明の第一段階として,野 外での動態解明に必要な齢の判定法につい て 検 討 し
た.
一般に用いられている真正クモ類の齢の判定法はクモの背甲の大きさが用いられている
が(浜 村,1971;川 原,1974),こ の他に眼域の測定での判定法がある(秋 田,1979).し
か し,こ れらはいずれもシャーレのような狭い空間での個体飼育が容易な俳徊性の種に限
られている.し かもその判定精度はまだ不十分であり,ま た他の判定基準についても検討
がなされていない.
本報告では,成 体で空間に直径50cm前 後の皿網を張るタイ リクサラグモの齢判定の指
標として,既 存の背甲の幅の他に中眼域の後辺の幅および眼域の幅について個体飼育によ
1)札 幌市豊平区羊ケ丘1番 地 森林総合研究所北海道支所
HokkaidoResearchCentre,ForestandForestProductsResearchInstitute,Hitsujigaoka1,
Toyohira-ku,Sapporo,Hokkaido,062Japan
1992年11月30日 受理
216 秋田 米治
り比較検討した.さ らに,野 外個体群の成長状況との比較もあわせておこなった.
本文に先だち,原 稿を校閲していただいた森林総合研究所北海道支所昆虫研究室室長,
福山研二博士に心よりお礼を申し上げる.
調査地および調査方法
\1
1。 個体飼育による各齢期の確定
本種の各齢期を確定するために,越 冬後間もない幼体から成体までの発育経過を個体飼
育で調べた.こ こでの齢とは昆虫などの齢判定と同じように脱皮と脱皮の間の期 間 と し
た.ま た,こ れまでの観察から本種は卵嚢内で2齢 まで発育することが予想されたため,
発育初期については卵嚢を解剖して調査した.な お,野 外では本種の産卵場所が不明で卵
嚢の採取が出来なかったため個体飼育は野外で採集可能な最も若い発育段階の2齢 幼体か
ら開始し,解 剖に供した卵嚢は飼育下で産卵したものを用いた.個 体飼育は1986年 と1987
年の2年 にわたって行った.
個体飼育方法:個 体飼育は,プ ラスチックの飼育容器内にクモが網を張るための木枠を
入れたものを用いて行った(図1).こ の木枠は簡単に取り出せ,木 枠に網を張ったクモ
を随意に取り出せるようになっている.飼 育容器1箱 にクモを1頭 ずっ放し,翌 日網を張
り安定したものを用いた.
飼育条件:個 体飼育は野外温度条件下で行い,大 型ダンボール箱に飼育個体の入った飼
育容器を入れ,こ の上を新聞紙で覆ったものを風通しの良い網室の日陰においた.気 温の
上昇する6月 中旬から直径約1cmの 丸めた綿に水を含ませて,こ れを4日 に1回 の割で
容器の底において与えた.
供試材料:森 林総合研究所北海道支所羊ケ丘実験林で1986年5月14日 に採集した2齢 幼
体22頭 のうち翌日網を張り安定した20頭を用い,1987年 は5月13日 に採集した2齢 幼体25
頭のうち翌日網を張り安定した23頭を用いた.
V
図1.タ イリクサラグモを飼育するために考案した飼育容器.
タイリクサラグモの齢 217
図2.タ イリクサラグモの外部形態の測定部位
(a:背 甲幅,b:眼 域の幅,c:中 眼域の
後辺の幅).
餌条件:1986年 の飼育では,餌 としてショウジョウバエ成虫(以 後ハエと略)を 用い,
4日 間隔で2頭 ずつ(日 当り0.5頭),4頭 ずつ(日 当り1.0頭),8頭 ずつ(日 当り2・0
頭)を 与える3段 階を設 けた.各 餌段階に供試 したクモの個体数は日当り0・5頭 区では7
頭,日 当り1.0頭 区では6頭,日 当り2.0頭 区では6頭 とした.1987年 の飼育では,1986
年の飼育結果の再確認の他に餌条件が過少 と,や や過少な場合を想定 し,1986年 と同様の
3段 階の餌量の他に,8日 間隔で1頭 ずつの餌(日 当り0.125頭)区 と4日 に1頭 の餌
(日 当り0.25頭)区 を設定 した.供 試 クモ個体数は,日 当りの餌が0.5・1.0・2・0頭 区で
はそれぞれを4頭 とし,日 当り0.125頭 区では6頭,日 当り0.25頭 区では5頭 とした.
発育経過測定法:発 育経過の調査は,各 齢期の脱皮ごとに成長するクモの体の外部形態
の3部 位(中 眼域の後辺の幅,眼 域の幅および背甲幅)を 測定 して行った(図2).
また飼育下で産卵させた卵嚢を割って2齢 幼体を取 り出して測定 した.1986年 では,7
月に産卵が行われたので,そ の卵嚢内の幼体の発育状況を8月26日 に2頭,12月26日 に29
頭を調査 した.
各部位は脱皮後間もない個体を実体顕微鏡下の接眼 ミクロメーターで測定 した.測 定に
あたっては,ク モが動かないようにクモの体の上下を挾めるように動かせ る3cm×3cm
×3cmの 大きさの透明プラスチックの小箱に固定 して生きたまま行った.
接眼 ミクロメーター目盛からmmへ の換算にあたっては,1mmは ミクロメーターの
29目 盛 に一致 したので,ミ クロメーター1目 盛は0.03448と なるが,小 数点以下4桁 で4
捨5入 して0.034mmと した.ミ クロメーター1目 盛以下の長さは0.5目 盛単位で目測し
た.
またデータ処理にあたっては,0.034mmを もとにして処理 し,小 数点以下3桁 で4捨
5入 し,2桁 で示した.誤 差は平均±標準偏差で示 した.た だ し誤差がみとめられたもの
で小数点以下2桁 の表示において0と なるものは範囲で示した.
X18 秋田 米治
2.野 外での発育状況
室内でのハエ餌を用いた飼育によるクモの外部形態の発育状況と比較す るため野外での
発育状況を調査 した.調 査地は,森 林総合研究所北海道支所羊ケ丘実験林7林 班の広葉
樹天然林内樹下植栽の樹高約1.5〜2.Omの トドマツ幼齢林(1975年 植栽)内 に設けた.
1986年 は5月8日 に積雪が消える頃の越冬か ら出現 して間 もない幼体の29頭 をたたき落と
し法により採集 し,外 部形態の3部 位を測定 した.1987年 は5月20日 に29頭,26日 に33頭,
6.月10日 に25頭,24日 に30頭,7月14日 に26頭,8.月13日 に11頭 を採集 して発育状況を調
査 した.
結 果
1.外 部形態による各齢期の判定
1986年 の飼育結果をみると,全 餌区において越冬から出現後の間もない幼体は,雄 は3
から4回,雌 は4回 の脱皮を経て成体まで発育した.各 個体の3部 位の測定結果は図3の
とおりである.
眼域の幅と背甲幅ではクモの齢がすすむに従い,そ れぞれの幅にバラツキが生じ,各 齢
ρ間に重なりが生じて正確な齢判牢の出来ない部分があるのが分かった.一 方・中眼域の
図3,ハ ェの給餌量の違いによる各齢と各測定部位の間隔との関係.左:4日 に2・4・8頭 区,
中:4日 に1頭 区,右:8日 に,1頭 区(a:背 甲幅,b:眼 域の幅,c:中 眼;域の後辺の
幅,ma:最 大値,m;平 均値,mi:最 小値).
タイリクサラグモの齢 219
後辺の幅では全ての餌区が越冬あけ出現直後の幼体(0.14mm)か ら脱皮ごとに0.03mm
ずつの勾配で直線的に増加 し,各 齢間での重な りはほとんどみられなかった.し た が っ
て,齢 判定の指標としては中眼域の後辺の幅を用いればほぼ正確な齢判定が出来ることが
わかった.1987年 での飼育調査でも同一の餌条件ならば1986年 とほとんど変 らなかった.
また卵肇を解剖 して取 り出した幼体の発育状況をみると,8月26日 の2例 では,中 眼域
の後辺の幅は0.14±Omm,眼 域の幅は0.27二 〇mm,背 甲幅は0.51±Ommで あった.
12月26日 の29例 では,中 眼域の後辺の幅は0.14±Omm,眼 域の幅は0.30±0.01mm,背
甲幅は0.53.0.03mmで あった.ま た,こ の調査の際に,卵 嚢内には卵の抜け殻と1齢
幼体の抜け殻が残されていたことから,8月 と12、月の測定 した幼体は2齢 であることが確
認された.
次にこれら卵嚢内の2齢 幼体の中眼域の後辺の幅を野外の越冬から出現 して間もない幼
体のものと比べると調査 した範囲ではよく一致 した.し たがって野外で越冬から出現 して
間もない幼体は2齢 であることが判明し,個 体飼育での出発点とした越冬から出現 して間
もない幼体の発育段階は2齢 幼体であることが分かった.
以上の結果を整理すると,最 初の飼育幼体は2齢 であり,3〜4回 脱皮 して雄は5〜6
齢で成体となり,雌 は4回 脱皮 して6齢 で成体となることが判明した(図3).
餌:条件が日当り0.25頭 とやや少ない場合の発育状況は雄では正常に発育 したものの,
雌では通常の餌条件より1齢 早 く成体とな り,体 サイズも小型となった.こ れらの3部 位
の測定をみると,最 もバラツキの少なかったのは,こ れまでと同様に中眼域の後辺の幅で
あったが5齢 になるときに一部が4齢 と,ま た6齢 になるときに5齢 との判別が出来なく
なる点があった(図3).
餌条件がさらに少ない場合(日 当り0.125頭)で は,雄 では成体まで発育 したがその体
は小型となり,成 体後約15日 で死亡 した.雌 は1例 のみが成体に発育 したが,他 は亜成体
まで しか発育せず,こ れらはこの後数 日経て死亡した.こ れらの発育の3部 位の測定をみ
ると,最 もバラツキの少ない齢判定の指標はこれまでの結果と同様に中眼域の後辺の幅で
あった.し か しこの指標でも一部において4齢 と5齢,ま た5齢 と6齢 がかさなって判別
が出来な1くなるものがあった.、
このように餌量と発育状況の関係を見ると中眼域の後辺の幅は,幅 がそれほど変化しな
いのに対 して,眼 域の幅と背甲幅はいずれもバラツキが大きく,餌 量が多い方が全体 とし
て大きくなる傾向が見られた(図3).
2.室 内飼育における発育状況と野外個体群との比較
積雪が消えて越冬から間もなく出現 した幼体の発育状況をみると,1986年5月8日 に調
査地で調べた幼体29頭 では,中 眼域の後辺の幅が0.14±Omm;眼 域の幅が0.30±0.01
mm,背 甲幅が0.54±0.04mmで あり,2齢 幼体であることが判明 した.
次に野外の5月 下旬から8月 中旬までの発育状況を中眼域の後辺の幅を齢判定の指標と
して調べると,個 体飼育での発育結果 とほぼ一致 し,と くに餌量が4日,に2頭 区のものに
類似 していた(表 ユ).し たがって,野 外の発育状況は個体飼育での発育状況乏大体一致
しており,中 眼域の後辺の幅を用いて野外個体群の齢をかなり正確に決定できると思われ
220 秋田 米治
表1.タ イ リクサラグモの室内飼育における発育状況と野外個体群との比較一中眼域の後辺の幅
とその出現個体数一.〔 野外個体群の齢は中眼域の後辺の測定値から判定 した.接 眼ミク
ロメーターの目盛(1目 盛=0.034mm),4(0.136mm)=2齢,5(0.170mm)=3齢,
6(0.204mm)=4齢,7(0.238mm)=・5齢,8(0.272mm)〜9(0.306mm)=6齢.〕
る.た だ し,野 外の雌成体の一部には,飼 育個体群を上回り,中 眼域の後辺の幅の最大が
0.31mmの ものがいた.し か し,1985年6月27日 に予備実験 としてハエ餌 日当り0.5頭
区で飼育 した5個 体の中に1雌 個体だけ,中 眼域の後辺の幅が5齢 で0.24mmで あった
ものが6齢 では0.31mmに 発育したものがあったことから,こ の場合も6齢 とみなして
よいと思われた.
考 察
・1986年の個体飼育にて供試した餌量での発育経過や体の大きさが
,野 外での通常の生息
地での発育状況とほぼ一致したことから,日 当り0.5〜2.0頭 という餌量は野外における本
種の通常の餌量とほぼ同じレベルであったと予想される.、
齢判定基準のたあ検討した,ク モの頭胸部の最内側にある中眼域の後辺の幅の発育は,
わずか1例 を除くと脱皮ごとにほとんどで定割合で発育した.こ れに対し中眼域の後辺の
幅より外側にある眼域の幅と背甲幅では発育幅のバラツキが大きくなり,最 も外側の背甲
タイリクサラグモの齢 221
表2.ハ エ餌量とタイリクサラグモ雄成体出現との関係.
幅で最大となっていた.こ の原因は今のところわからない.
餌量の違いと各外部形態の発育の関係を見ると,中 眼域の後辺の幅では餌量がすくない
と一部に5齢 や6齢 になるときにあまり生長しない個体があったものの全体にはそれほど
影響を受けなかった.こ れに対して,眼 域の幅と背甲幅では餌不足の影響がより顕著に現
れていることから,中 眼域の後辺の幅の方が齢を推定する指標としてより確実であること
がわかった(図3).
8月 と12月の卵嚢内の2齢 幼体の発育は同じであったが,こ れは8月 上旬頃までに産ま
れた卵が卵嚢内で8月 中旬頃までにふ化して2齢 幼体まで発育し,そ の後はこの状態のま
ま卵嚢内で翌年の5月 上旬まで越冬するためと考えられる.
個体飼育では本種の脱皮回数:は雌成体で4回 と一定であったのに対し,雄 成体は3〜4
回と異なっていたが,こ れは与えたハエ餌量とは関係ないことから(表2),性 別による
違いと考えられる.
野外の雌成体において,中 眼域の後辺の幅の発育が0.31mmの ものがかなりいた(表
1)の に対して,ハ エだけを与えた今回の個体飼育では0.31mmに 達したのはきわめて
少なかった.こ の原因は不明であるが,ハ エ餌だけの飼育なので栄養条件が不十分だった
のかも知れない.し かし,全 体に死亡が低かったことから,今 回の個体飼育のために設定
した環境条件はクモの生存にとって適切であったと考えられる.
摘 要
タイリクサクグモの齢判定法の基準を明らかにするため,中 眼域の後辺,眼 域の幅,背
甲の幅の3つ の体サイズと齢との関係を,野 外での観察および3っ の異なる餌条件下での
室内飼育によって調べた.そ の結果,眼 域と背甲の幅ではバラツキが生じたのに対し,中
眼域の後辺の幅は齢が進むに従い0.03mmの 勾配で直線的に増加し,各 齢間での重なり
はほとんどみられなかった.こ の調査の結果から齢は野外でみられる餌条件においても中
眼域の後辺の幅を指標とすることでほぼ正確に判定出来ることが示唆された,
222 秋田 米治
文 献
秋田米治,1979.オ オヤミイロカニグモの齢の判定.、46彪 αm6加o乙,28:91-95.
1985.林 試北支実」験林の造網性クモ類と捕獲昆虫類(r【).第96回 日本林学会大会論文集,
pp.495-496.
1990.造 網性タイ リクサラグモの捕食能力 トドマツオオアブラムシに対して.森
林保護,218:31-32.
浜村徹三,1971.キ バラ ドクグモ ・Pケα'α 鋤妙伽'∫伽5(BoEs.etSTR.)の 生態1.∠4c'α αm6私
nol.,23:29-36.
川原幸夫 ・桐谷圭治 ・垣矢直俊,1974.キ クズキコモ リグモ.Lッ605α ρ58π40αη側Zα'α(BoEs.et
STR.)の 個体群生態.高 知県農林技術研究所研究報告,6:7-22.